児童虐待の基礎知識 その1 児童虐待とは?
児童虐待の基礎知識 その2 児童虐待が起きる理由
児童虐待の基礎知識 その3 児童虐待の事後対応
児童虐待の基礎知識 その4 児童虐待の未然予防
まずは子どもを幸せにしよう。すべてはその後に続く。(A・S・二イル)
みんな幸せな子どもだったら、大人になっても、児童虐待なんてしない。
自分が幸せだったら、人を不幸な目にあわせようとは思わない。
ジョンレノンの「イマジン」が聴こえてきそうですが、究極はそういうことだと思っています。
とはいえ、今児童虐待がなくならなければ、今生きるすべての子どもを幸せにはできない。
じゃあ、どうすれば、児童虐待のない社会を作ることができるのか。
勝手に宣言しちゃいました。
宣言はしたものの、私は政治家でも大金持ちでもないから、大きなことはできません。
だから、小さなことからコツコツと。
みんな、「政府が」「親が」「学校が」「専門職が」って議論して、自分じゃない誰かになにかをしてもらおうとするけれど、そうじゃなくて、これを読んでいるあなた自身が、これを書いている私自身が、何をどうできるのかを、ここでは考えていこうと思います。
Contents
一人ひとりの現実の生活
冒頭に掲げた、子どもを幸せにしようというコンセプトに反対する人はおそらく一人もいないでしょう。
児童虐待が存在することに、心を痛めない人もいないはず。
けれど、実際の生活となると、具体的なアクションをしている人はきっと少ない。
こう書いている私だって日々の仕事や介護に追われているから、リスクが高いと言われる、乳幼児や障害の子を持つ親やシングル家庭を直接支える余裕はなく、たまに電車やスーパーなどで出会っても、いきなり話しかけることもできず、心の中で応援するだけ。
教員として学校にいても、すべての家族と深いコミュニケーションをとるのは難しいし、他の学年の子どもの事情まではわからない。
教員であること、このサイトを書いていること、そして著書で描いたような本物の支援を多くの人に知ってもらおうとしていることで、なんとか少しは具体的アクションをしているんだ、と自分に言い聞かせている程度です。
みなさんはいかがですか。
教育や福祉に関わる仕事やボランティアをしている方はともかく、子どもや家庭と縁遠い人が、児童虐待防止に具体的に寄与する機会はほとんどないですよね。子どもがいたとしても、仕事を持っていたりすれば、ほかの子どもまで世話する余裕はなかなかない。
でも今まで家族支援に縁遠かったみなさんも、この記事を読んでいるくらいですから、これを機に、なにか「まあ、これで、なんとか子どもの幸せに寄与するかな」と思うことをやってみませんか。
まずは、知ってほしい
もしも、「なにかしたい」と思ってくれたら、具体的なアクションをする前に、まずは知ってほしい。
ここにある児童虐待の基礎知識シリーズ、インターネットにある当事者の声、児童虐待対応に尽くしてきた先人の著書などから、児童虐待のメカニズムを、まずは全体的に理解してほしいのです。
なぜかというと、支援は、より効果的でないともったいないからです。
家族支援は、マンパワーも資金も少ないので、費用対効果が求められます。
だから、どうせアクションするなら、効果的なことをしなければもったいないのです。
そして、効果的なことをするためには、やる前にいろいろな面から虐待について知り、そしてなにをするかしっかり考えたほうがいい。
途中でやめることもできれば避けてほしい。
今まで、家族支援・子育て支援の世界に長くいて、見当違いのアクションや、意欲を持って始めたのに途中でバーンアウトしてしまった例をたくさん見てきたから、おせっかいだけど、同じ過ちを繰り返してほしくないのです。
自分の得意なこと、自由になる時間、そして児童虐待のどの側面にアプローチしたいのか。
それらの組み合わせの中で、無理のない範囲で続けていってほしいと思います。
一人ひとりの家族との関わり
児童虐待について知ることは、自分自身が育ってきた家族のありようを理解するのにも役立ちます。
もしも、あなたが被害/加害当事者あるいはその予備軍なら、その3で書いたように、なぜ、自分の家族がそのようなことになってしまったのかを理解する助けになります。
なぜそうなってしまったかがわかると、それを冷静に俯瞰できます。
冷静に俯瞰できると、変化へスタートラインに立てます。
だれかになにかをする前に、自分の家族関係をふり返り、もし不適切な関係性やコミュニケーション特性があったなら、そこを整理する努力をしてもいいのかもしれません。そしたら、まずは、自分自身と家族の幸せが少しずつ実現するかも。
少しだけ、だれかのためになにかを
という意見もありますよね。
親たちは将来のタックスペイヤーを育ててくれているのです。
今小さな子どもたちは、将来、警察、消防、学校などの社会資源も、子どもを育てなかった人たちの老後も支えていきます。
そう考えると、「子どもは社会で育てるもの」という考えを、もっと胸を張って広げていっていいのかなと思うのです。
この考え方の延長線上に、不適切な子育ては、社会資源の大きな損失という考え方もあります。
たとえばある一人の人が、虐待を受けた結果、犯罪や薬物に手を染め、警察、裁判を経て刑務所で暮らしたら、その人が納税することはなく、一方で使われた社会資源(警察、裁判、刑務所)の費用は莫大になる。
逆に、もし、なにごともなく納税者になったら、長きにわたり納税者となり、社会資源を浪費することもない。
だから人道的な面からだけでなく、経済的な側面からも、児童虐待を予防することを含む、家族支援に公的投資がされるべきだという論理です。
まあ、経済的な論理を持ち出さなくても、くりかえしますが、児童虐待が存在することに、心を痛めない人はいませんよね。
にもかかわらず、右手で児童虐待を嘆き、左手で現代の親の子育てを批判する。そんなふうに暮らしている人が多いように思います。
けれど、その4でも書きましたが、どんな親だろうと、親を責めても、親だけに背負わせても、児童虐待防止に良い結果は得られません。
そして、いくら納税をしても、残念ながら児童虐待予防に、家族支援に充分な公的資金は廻ってきていません。
だから、児童虐待のない社会を作るためには、少しだけでいいから、一人ひとりが具体的なアクションをするしかないと思うのです。
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とりあえず気軽に家族支援を始める方法を、いろいろ考えてみた
子育て支援業界は、家族支援のプロじゃない人材を求めてる!
社会を変えるムーブメントの礎になる
長い間生きていると、考えられなかったことが見事に変わる様子を体験することがあります。
昭和の頃は、体罰が法律で規制される日が来るなんて、とても想像できなかったし、タバコ吸う人が大手を振っていて、嫌煙家は分からず屋と非難されていたのですよ。
マイノリティ差別もひどくて、障害者の差別を禁止したり合理的配慮を求めたりする法律なんて、叶わぬ悲願かと思っていました。
男女差別も今より大きかったし、同性愛者は日陰者扱いだったけど、最近は大手企業でLGBT教育が行われ、おじさんたちが「アライ宣言」してるんだそうです。
だから、みんなで「児童虐待をなくそう」っていう想いで、いろんなことをやったり言ったりし続けていたら、いつか、児童虐待のない社会だって、実現できるかもしれない、と信じます。
子ども虐待対応の手引き
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv12/00.html
児童虐待の防止等に関する法律
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv22/01.html
(厚生労働省ウエブサイト)
この記事をもって児童虐待についてのシリーズは終了です。児童虐待の基礎知識 その1では、児童虐待の種類について、その2 では 児童虐待が起きる理由について、その3では 児童虐待の事後対応について、その4 では、児童虐待の未然予防について、その5 では 児童虐待のない社会を作る について解説しました。