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家族支援って?
家族支援、と言うと、日本では今のところ、主に、ひきこもり、発達障害(神経発達症群)、精神障害など、なにかしらの困り感を持つ当事者の家族の支援と言う狭い意味で使われています。
しかし、英語のfamily supportsの翻訳語としての"家族支援"は、狭い範囲にとどまりません。
本来、家族支援はオーダーメード。すべての家族に、家族支援は必要です。
このサイトでは、90年代に外国で成立した「家族支援学(family supports theory and practice)」をベースにした、"家族を応援するアクション"すべてを家族支援と呼んでいます。
上の文章は、「このサイトについて」のページから再掲したものです。
ここでは、じゃあ、"家族を応援するアクション"すべてって具体的にどういうこと?という解説をしていきます。
家族支援がカバーする範囲
家族支援の対象
家族支援は、子どもや、子どもを育てる家庭を支援するという狭い範囲にはとどまりません。子どものいない家族はもちろん、子どものいない家族、子どもが巣立った後の家族、家族を作る前の若年層など、あらゆるタイプの家族が対象です。
にもかかわらず、家族支援=子育て支援というイメージを持つ人がマジョリティではないでしょうか。
実際には、図にするとこんな感じです。
そして、家族支援は、家族という定義を、血のつながりや制度に囚われない、一般概念よりもっと広い範囲で捉えています。(詳しくはLGBTQ・シングルペアレント・シェアハウス……多様化する家族の定義をどーする?をご覧ください。)
家族支援と子育て支援と保育の関係
さて、子どものいる家族限定の子育て支援は、家族支援の一形態ということがお分かりいただけたと思います。
ついでに、保育と子育て支援の関係も整理しておきます。
日本では、保育は子育て支援と同列で語られ、子育て支援が保育園の一事業として行われてさえいます。だから、家族支援同様、子育て支援も子育ての手助けや子育て方法の伝授のような、狭義のイメージになってしまってして、それが、本来的な子育て支援、家族支援をトータルで提供するイメージを妨げる結果になっているように思います。
けれど、後述しますが、保育以外にも子育て支援のアクションは多様に存在します。保育は子育て支援の一環です。
本来は、このような関係だとご理解ください。
家族支援を俯瞰する
保育、子育て支援も包括する家族支援が、じゃあ具体的にはどういうことをするのかをみていきましょう。
家族支援は、俯瞰すると以下の図のような構造になっています。縦の「予防」と「事後対応」、横の「教育」と「福祉」が絡み合って存在します。
予防と事後対応
予防
なにも問題が起きていないときに、問題が起きないようにするのが予防です。たとえば、子育てひろばの営みなどは、特別なアクションをするわけではない、日々のコミュニケーションやさりげない配慮でできています。すると、表面的には何もしていないし、何も起きていないように見えてしまい、効果を検証しにくい。
実は、家族支援における予防こそが費用対効果抜群なのですが、わかりやすい現象がないと、人々はその効果をわかってくれません。わかってもらえないと、予算が付きにくいし、寄付も集まりにくい。そのため、予防はいつまでたっても地味な存在です。
事後対応
明らかな社会問題が起きると、世論は一斉にそこに注目します。それに呼応するように制度が創設されたりサービスが生まれたり。
というように、注目されがちでリソース(資金や人材)も集まりやすそうな事後対応ですが、こちらは費用対効果がすこぶる悪い。なにかが起きるところまでこじれてしまった事態を収拾するのは、プロフェッショナルでも難しいのです。
ほんとうの意味でプロフェッショナルな力がなければ難しいから、有資格者でも給与所得者でも、この仕事をうまくやれるとは限らない。たとえ志をもってこの仕事に就いたとしても、そのしんどさゆえにする人も後を絶たないとか。
その上、おカネが絡むと、どうしてもニセモノも横行します。これが事態をさらに複雑にしてしまう。
予防が大事なのは自明のこと。事後対応はほんとうにたいへん。費用対効果も期待できない。
でもだからといって、今、目の前の人を捨ておくわけにはいかない。
と友人は言っていました。
次の文章は、2003年からずっと紹介している文章ですが、まだまだ事態は変わっていないように思うので、再掲します。このたとえ話は現実をとてもよく表していると思います。
David Maceは、1990年に亡くなるまで、長い間、夫婦や家族向け予防教育プログラムの第一人者であった。
彼はしばしば、曲がりくねって大変危険な山道の果てにある深い谷に位置する小さな町のたとえ話をした。
町に続く道は、暗くて狭く、一番危険なカーブを知らせる何の標識も、ミラーもなかった。
そのため、何年もの間、何台もの車が、崖に突っ込んだ。
多くの人々は重傷を負い、死に至る者もあった。
ついに町の行政が、なんらかの対策を立てることにした。
何週間かの調査研究を経て、行政は対策を講じた。
その結果、救急車が崖の下に待機することになり、これによって、事故が起きた時、生き残ったものは病院に搬送され、運がよければいくつかの命は助かることになった。
非論理的な点は明らかである。
なぜ、事故が起きるまで待っているのか? なぜ、標識やミラーにお金をかけないのか?もしそうすれば、たくさんの事故が防がれ、お金だけでなく、悲劇も、ずいぶんと少なくてすんだはずなのに!
必要なのは、予防への投資と、事後対応の充実。……似非支援に予算が流れませんように。
2023年創設の、子ども家庭庁に期待します。
教育と福祉
家族支援には教育的アプローチと福祉的アプローチの二つの手法があります。
予防段階では教育的アプローチがメイン、事後対応では福祉的アプローチがメインですが、この二つはあざなえる縄のごとく絡み合って存在します。
これから、教育と福祉について書いていきますが、もちろん、ここに挙げたことではすべてを網羅していないことをあらかじめお断りしておきます。冒頭で書いたように、"家族を応援するアクション"すべてが、家族支援ですから。
こちらも参考にしてください。→家族と関わるときの5つのレベル~あなたはどのレベルで仕事をしますか~
教育
教育といっても、家族支援のそれは、子どもが学校で教わるようなイメージとは、まったく違います。これは、家族のメンバーが、それを学ぶことで自らのウエルビーイングを高める実際的な学びで、成人教育の手法を使って実施されます。あらかじめ知っておいたり、考えたりしておくことで、これから起きうる問題を回避する、そのための教育です。具体的には、共通のトピック(例えば父親同士というざっくりしたもの、乳幼児の子育てのような一般的な話題、あるいはアルコール依存のような重い問題も)を持つ人たちが集まって、主に少人数、多方向コミュニケーションで行われます。トピックによっては、大人数の講演会が採用されることもあります。
教育的アプローチをする中で、参加者の中に、より専門的なセラピーが必要な人がいる場合は、カウンセラーやセラピスト、あるいは医療に繋ぎます。この段階はもう、予防ではなく、事後対応になります。
福祉
福祉というと、役所へ行って申請して、制度を利用して…というイメージがあるかもしれません。
家族支援における福祉的アプローチは、もっと直接的で、その家族が困っていることにダイレクトに対応します。
具体的には、家探し、職探し、食料提供、居場所提供など。
子育てひろばでも、食事をしていない家族が来たら、すぐに朝食や昼食を提供するイメージ。クローズエクスチェンジという洋服の交換や提供も恒常的に行われています。
日本の現状では、まず制度やシステムがあって、受け手がそれに身体を合わせるようにしないと、あるいは、その条件に合致し、しかも書類を申請しなければ、福祉の恩恵を得られないという現実が、まだまだあると聞きました。
私が子育てしていた頃から、変わっていないのかと暗澹たる気持ちになりますが、風穴を開けるように、ボランティアで、こういった家族支援の福祉的アプローチを担う人たちもいます。
家族支援と地域(まち)づくり
最後に、地域(まち)づくりについて言及しなければいけません。
家族支援では、子どもは家族(またはそれに代わるもの)と、家族は地域と切っても切れない関係にあるから、子どもを善く育てようと思えば、地域を善くしていくしかないと考えます。これは、子どもがいなくても同じこと。
地域(まち)づくりって、わかりにくいけど、英語だとcommunity developmentといって、直訳すると、「コミュニティの開発/発達」。そこに住んでいる人たち自身が、自らアクションしてその場所をよくしていくような、その人たち自身の考え方が成熟していくようなイメージです。具体的には、ゲリラガーデニングといって、公共の地面に花を植えたり、地域通貨を作ってスキルをやり取りしたり。コミュニティオーガナイザーというプロフェッショナルもいるそうです。
日本の家族支援
カタカナの外国の実践に倣うだけじゃなくて、日本らしいやり方だってきっとあると思います。
実は、国(厚生労働省)はすでに2008年に「我がこと、まるごと」という合言葉で地域を包括的に支援していく方針を出しているし、2022年には子ども家庭庁がこの家族支援の考え方同様の、妊婦・子育て家庭への伴走型相談支援と経済的支援の一体的実施を打ち出しています。
と言いつつ、国が方針を打ち出しても、十分な予算措置が伴わずに、笛吹けど踊らず状態になったり、
逆に潤沢な予算がついても、それがホントに最前線で頑張っている人には届かず、うまくやれる人のところに集まってしまったり
あるいは政策自体が、都道府県・市町村と降りてくる間に変質してしまって、使い勝手が悪くなっていたり
うというのが、私がこれまで見てきた印象だからなあ。
そのような私の印象、政策理解が間違っていて、
政治の力でホントに子育てする人が幸せになることを、心の底から望んでる。
家族は、もちろん子育て家庭だけじゃないんだけど、でも、現状、子ども、特に小さな子どもがいるほうが大変な状況って、あるからなあ。
本当の家族支援が日本に行き渡ってほしいなあ。
子ども一人育てるには村中の力が必要
(カナダでもらったTシャツに書いてあったアフリカの諺の日本語訳)
「子育てひろば」は児童虐待防止の最前線
家族と関わるときの5つのレベル~あなたはどのレベルで仕事をしますか~
だから家族支援(子育て支援・親支援)のプロに資格はいらないんだってば!
家族支援者たちの合言葉は、Make A difference(社会をちょっと変えよう)ファミリーライフエデュケーションってなに? どうやってやるの?
LGBT・シングルペアレント・シェアハウス……多様化する家族の定義をどーする?