「彼ら(小さい子)と24時間、365日接し続けると、どんな大人でもおかしくなる。母親なら大丈夫というものではない。」(斎藤学「男の勘違い」)
Contents
レスパイトとは?
レスパイトの意味は、一時的休息、小休止といったイメージです。
一人では生きていけない誰かの世話をする人をケアギバーと言います。
ケアは世話、ギバーは与える人という意味です。
たとえば、高齢者の介護や、重い障害を持つ人の介助にあたる人はケアギバーです。
家族支援では、乳幼児の世話をする親や養育者もケアギバーと定義しています。
乳幼児は、とても一人では生きていけないのですから、親もある意味ケアギバーなのです。
そして、ケアギバーにとって、定期的に一時的休息を取ることは、当然要求してよい権利です。これがレスパイト。
絶えず誰かの世話をしている人は、時折休まなければ行き詰まります。ケアギバーだって、QOL、人として生活の質を保障されなければなりません。
だから、働く人に一日一定の休憩時間が保障されているように、ケアギバーの定期的なレスパイトは、当然の権利なのです。
レスパイトケア、レスパイトサービス、レスパイト入院、ショートステイ……?
レスパイトにまつわる用語を整理します。
レスパイトケア
ケアギバーに、レスパイトというケアを提供することが、レスパイトケアです。レスパイトが、ケアギバーが休むことそれ自体を指すのに対し、ケアしている人(ケアギバー)をケアしてあげる行為が、レスパイトケアです。
レスパイトサービス
レスパイトケアと同様ですが、もう少し広い範囲の、レスパイトケアを提供するシステム全般を指すようなイメージでしょうか。
レスパイト入院
レスパイトケアが、施設でのショートステイや自宅への看護師派遣などであるのに対し、レスパイト入院は病院への短期入院を指します。患者に緊急性のある入院の必要性はないが、ケアギバーのレスパイトのために当事者が入院することです。
レスパイトとショートステイの違い
ショートステイは、英語では、単純に短期滞在という意味なのですが、日本では、介護、介助者が一時的に世話から離れる間、当事者が施設や病院に短期滞在することを指します。
最初にレスパイトの概念が海外から入ってきたとき、レスパイトケアを、ショートステイ事業(ケアギバーの必要に応じた当事者の短期入所、入院)として展開したために、この言い方が、日本では特別な意味を持って定着したと思われます。
レスパイトは、ケアギバーのすることであり、ショートステイは当事者がすること、というように区別できます。
ついでに言えば、デイサービスは、主に高齢者・障害者向けの日中の居場所提供、放課後デイサービスは、障害のある子向け放課後の預かりと療育の場。いずれも介護者や保護者のレスパイトケアの面も併せ持つと言えます。
レスパイト黎明期
海外の福祉先進国から伝えられたレスパイトは、当初、在宅の重度心身障害児者の介助者、高齢者等の介護者が、冠婚葬祭などよんどころない事情のときに、やむを得ず施設や病院に短期入所・入院(ショートステイ)をするというニュアンスで始まりました。1970年代のことです。
私が、家族支援を学んでレスパイトの概念を知り、「乳幼児の親もケアギバーであり、レスパイトは権利である!」と、依頼された家族支援の講座や記事、ウエブサイトなどを通じて主張し始めたのは、2003年のこと。
その頃でさえ、まだ、ケアギバーが休むためにレスパイトするのは当然という感覚は、障害や高齢の方を世話している家族には浸透していませんでした。
同様に、乳幼児の親たちのなかにも、子どもを預けて遊びに行くことなんてとんでもない、という価値観がありました。
だから、そんななかで、私が、「乳幼児の親もケアギバー、レスパイトは権利!」といくら伝えても、当の本人の親たちが
「でもねえ…そうはいっても、気になって…」
「他の人に預けて休むなんて…」
と二の足を踏むような状態でした。
支援者たちからでさえ、
「用があって預かるならわかるけど、なんでお母さんを遊ばせるために預かるの?」
という発言がよく聞こえてきましたっけ。
※この頃はまだ専業主夫はほとんどおらず(今もいないか)、在宅の親=お母さんというのが一般的なイメージでした。
レスパイトの現状
法整備が進んできたことを受けて、自治体の、多様なケアギバーに対する、本来的な意味でのレスパイトサービスは少しずつ進んでいます。
今では多くの自治体に、高齢者向けデイサービス、ショートステイ、重度心身障害児者等レスパイト事業などがあります。
乳幼児の親に対してもリフレッシュというような言い方で、レスパイト的無料一時利用託児が少しずつ広まっています。
ただし、サービスがあっても、有料が条件だったり、利用頻度が限られるなど、多くの自治体で、すべてのケアギバーに充分なレスパイトが提供されている、とは到底言えない状況のようです。(詳しくはお住まいの自治体のウエブサイト等でチェックを!)
このサイトでは、最初に説明したように、多様なケアギバーの一時的休息を包括してレスパイトと呼んでいます。しかし、一般的には、乳幼児の親をケアギバーと認識する考えは広まっていません。それゆえ、多くの自治体では、障害を持つ人や高齢者の介護者に対するサービスをレスパイトケア、レスパイトサービスと呼び、乳幼児の一時預かりサービスは、レスパイトサービスではなく子育て支援サービスに分類されています。
レスパイトと虐待防止
レスパイトは、虐待防止なんですよね、つきつめれば。
高齢者虐待、障害児者虐待、児童虐待。
どれも、詳しく事情を辿っていくと、追い詰められたケアギバーによる悲劇でもあることが多いです。
だからレスパイトが必要なんです。
たとえば、乳幼児の親。
核家族化した今の日本では、保育園を利用しない場合、幼稚園に上がるまでは、親が24時間面倒をみることになります。
初めての子一人だけを育てている、仕事を持たない核家族の母親(父親)達には、必ずレスパイトをしてほしいと思います。
傍目からは、境遇的にも時間的にも、格別余裕があるように見える彼女(彼)達こそ、実はレスパイトがいちばん必要です。非協力的な夫(妻)を持っている人は、特に。
斎藤学さんが指摘しているように、どんなに子どもを愛していても、24時間365日乳幼児とベッタリだと、親だって精神的に追い込まれます。それは虐待につながりかねない。
だから、精神的に健康なまま子育てするためには、時折、休むことが必要なのです。
乳幼児の親のレスパイトの充実を
在宅の乳幼児の親のレスパイトは、まだまだ絶対に必要なサービスと認識されていません。
一方、働く親達、育児困難な親達のための保育園の設置、運営は、政策的に奨励されています。それには多額の公的資金が必要(ある自治体資料によると、0歳児で一人当たり約30~40万円)です。
かつては親が子どもをみれない場合の救済措置だった保育園ですが、今は、働く親の公的リソースに様変わりしています。
その結果、働く親には、保育園という形で公的資金が投入される一方、在宅の親は、あまり公的資金が投入されないまま、ほぼ自分で子育てを担ってきています。
けれど、週一回数時間のレスパイト保育なら、一人当たり約30~40万円もかかりません。保育園より社会的費用がかからないのです。ここらで、在宅の親への保育サービスの提供もお願いしたいところです(関係者の方々が頑張ってくださっていると思いますが……)。
2019年度~実施の保育無償化も、基本的には3歳から。0・1・2歳は非課税世帯のみで、しかも「保育の必要性の認定」が要件だから、レスパイト託児は対象外です。
これでは目先の無償化に目が眩んで、親達が子どもを預けて働くことを選び、保育園待機児童が増えそうな気がするのは、私だけ?
保育園を増やすのではなく、在宅で子育てしている親達へのレスパイトサービスを拡充することで、在宅育児を選ぶ親が増え、待機児童自体が減るというパターンは、ないのでしょうか……。
というわけで、少し話がずれましたが、
支援者には、
●レスパイトはケアギバーの権利であること
●ケアギバーへの、レスパイトの充実は、虐待防止の効果も期待できること
●日本のレスパイト、とくに乳幼児の親のレスパイトはまだまだ充分ではないこと
を知っておいてほしいと思います!